乾燥飼料を早く食べるようになるための最適な戦略
牛は反芻動物として基礎飼料をエネルギー源およびタンパク質源として最適に利用することができます。しかしそのためには成熟した前胃システムとよく成長したルーメンが必要です。誕生してから前胃システムが成熟するまで半年までかかり、この期間を経ないと前胃システムの機能が完全になりません。
この記事では以下を取り上げます
最適な前胃の成長
この頃まで子牛の基礎飼料消化力がまだ不足しているため、栄養強化剤をよく与えることがポイントになります。この理由から子牛には消化されやすい栄養強化剤のみ使用すべきということは改めて納得できます。実際にブチル酸とプロピオン酸は消化生成物として消化のよい炭水化物であり、ルーメンの中でルーメン上皮の良好な成長に寄与します。これによりルーメン内で表面積が増えて、ルーメンで消化中に生成される揮発性脂肪酸が最適に吸収されます。
しかし、子牛の離乳中と離乳後の栄養強化剤のみからなる給餌を進めようとしないほうがよいことはわかっています。これには二つの理由があります:
- ルーメンは前胃の運動性によい刺激がある構造が良好な粗繊維質を含む粗飼料が必要である。ルーメン内壁は強化され、ある程度の膨張効果によってルーメンが大きく成長しやすくなる。さらに、構造化粗飼料要素では新生ルーメン上皮が貼り付かないという効果がある。
- (栄養強化剤に基づく)消化のよい炭水化物成分が多いとルーメン内に継続的に酸性の環境が維持される。ルーメン内に短鎖脂肪酸が多量にあると、まだ十分にバッファーされず、血液中に吸収されやすくなる。この潜在的な臨床前期的(無症状の)ルーメン酸症が発生すると成牛と同じく、子牛の健康に負担となり、成長が遅くなる(摂取量不足や食事が楽しめない、免疫力低下)場合がある。最悪のケースではこの問題が小腸で留まり、臨床前期的(無症状)から臨床段階の酸症となり下痢に至る。J.K.van Niekerk et al., 2020, アルバータ大学
このため幼い子牛の場合いずれの場合にも栄養強化剤に加えて馬草や高品質の貯蔵生牧草あるいはおいしい藁といった粗飼料を与えることをお勧めします。
栄養強化剤と粗飼料に切り替えるタイミングは?
生後間もない子牛ではミルク成分しか消化できません。子牛の胃内には乳たんぱく質と乳糖の消化に適した酵素(ラクターゼまたはキモシン、カテプシン)が優勢です。3週間から5週間経過しないとこの状態は変化せず、でんぷんの消化酵素アミラーゼと植物性たんぱく質の消化酵素ペプシンとトリプシンが大半を占めるようになりません。
実際に生後4週間経過してからようやく子牛の栄養強化剤がゆっくりと増やせることは経験則からわかっています。集中給餌(例えば自由捕食)はもっと後になってからでもかまいません。
しかし、子牛に粗飼料を生後二週間からすでに与えるのには意義があります。子牛は餌で遊び、飼料の匂いや味、質感に慣れていきます。特に栄養強化剤を早くからやると酵素システムもよく発達するようになり、 ルーメンが早く成長するようになります(既述)。馬草のラックやネット、プレーボールを与えるとさらに子牛が活発になります。
実際にはトレイに少量を子牛にやる(シングルまたはツインペンなどで)ようにします。ポイントは残さない量であることで、残ると湿って真菌が発生しやすくなります。飼料摂取量が増えれば、すなわち、トレイが次回の給餌までに空になれば、一回の量を増やします。
子牛が体重の約1.5 %分の栄養強化剤を食べるようになったら、ゆっくりと離乳を開始するとよいようです(例えば、子牛の体重が80 kgでは1200 g)。
水を忘れない
最も安価な飼料が重要なことについてはもはや言い尽くされた感がありますが、子牛にやる水が不足しがちなことはいまだ見られます。衛生のためであるのかを問わず多くのシングルハウスの前に水トレイが単に見られないのは事実です。
揺るぎない原則: 法定であるだけではなく倫理的にも、すべての家畜に清水をやることは私たちの義務であり、子牛にとっても当然そうです。
また、ルーメン内で適切な発酵プロセスが進み、健康な細菌叢ができるためには水が必須であるという事実を顧みない人が多いような気がします。そのために自由哺乳でのミルクだけでは不足します。これはミルクが食道の溝を通り直接子牛の胃に流れ込むためです。
その結果: 栄養強化剤の早期摂取とルーメンの速い成長を望む限り、子牛に最初から水をやらなければなりません!
「若牛給餌」への切り替え
子牛栄養強化剤またはミュスリは比較的高価です。このため貯蔵生牧草 (乳牛用高性能飼料を優先) に切り替えるタイミングが問題になります。その答えはこのブログの冒頭にあります: 幼い牛の前胃システムは生後約半年かけて成熟します。このため成熟するまでは少なくとも高品質の栄養強化剤を与えるべきです。この際子牛のコンディショニングに注意し続けなければなりません。それでも生後6ヶ月までの子牛では概して自由給餌は可能でありそうあるべきでもあり、こうして子牛の重要な生育段階に体重が多く増加します。
重要なのは移行期です。たいていの子牛舎では貯蔵生牧草からの給餌は構造上困難です(場所の不足、飼料混合カートを運転して中を通過できない等)。さらに、切り替え初期には多く発生する残りの飼料をいかに処理するかも問題になります。それまでは十分に運び込んだ飼料を翌日また取り出さなければなりません。
さらに、ある時点にあまりに多くを切り替えることは家畜のために勧められません。従って若牛舎への移動にも考慮すべきです。以下の方策が解決につながる可能性はあります:
- 子牛舎ではまだ子牛がに離乳させてから2週間~4週間は完全栄養強化剤と馬草またはドライTMRを与える。
- 切り替え後、子牛には若牛舎で栄養強化剤と馬草を混ぜた既存の子牛用配合飼料やドライTMR以外にすでに後期混合飼料 (貯蔵生牧草) も与える。子牛が貯蔵生飼料をよく食べるようになってから初めて、子牛用配合飼料を段階的に減らして終了します。
若牛舎で貯蔵生牧草給餌を開始して初めて、子牛の残した飼料は、場合によってはより年長の若牛にやることができるため、大した課題ではありません。